『たわむれる』
−主な内容−

中山間地域における
土地改良区の実態調査報告書(その2)


農林年金の厚生年金への統合法案が成立

土地改良施設管理研修会を開催


農業農村整備事業推進懇談会を開催

農業基盤整備資金の金利改定

平成13年7月主要行事報告

表紙写真説明

中山間地域における土地改良区の実態調査報告書
(その2)

−土地改良区の役割とその可能性−


   茨城大学農学部助教授 安藤 光義


2.現地実態調査にみる中山間地域土地改良区の運営実態と今後の方向
  (1)はじめに
 −調査を行った12土地改良区の概要−

   12の土地改良区について現地調査を行った。
 そのうち若柳川南土地改良区は、平地農業地域の土地改良区であるが、中山間地域土地改良区との比較対照という意味もあり、割愛することなく報告書に収録した。
   その若柳川南土地改良区だが、これは大規模潅漑排水事業を実施した典型的な東日本の平場水田地帯の土地改良区である。
 圃場整備も実施されているが、土地改良区のメインはそこにはない。
 そうしたこともあってか、集落としてのまとまりは弱く、水利組合に相当するような地域資源管理団体は存在していない。
 潅漑排水事業は半ば上下水道事業と化しており、農家は用排水管理を公的セクターに完全に依存してしまっているというのが実態であり、土地改良区も潅漑排水事業を実施するための公的機関としての性格を強めている。
 この次に位置するのが庄原市土地改良区である。
 ここは合併によって誕生した大規模土地改良区であり、土地改良区の下には旧土地改良区をはじめ、任意の水利組合等が多数ぶら下がっており、この下部組織が土地改良施設の維持管理を担っている。
 しかし、こうした下部組織と土地改良区との間の連携関係は極めて弱く、土地改良区は各種補助事業を推進するための半ば公的な機関として位置付けられており(市からも工事費助成がかなり出ている)、地域資源の維持管理のための組織とはなっていない。
 ある意味で合併土地改良区の一つの典型事例とすることができる。
  ここよりも一歩進んだ合併土地改良区が玉山土地改良区、阿蘇土地改良区であり、最上町土地改良区、伊勢南部土地改良区の活動内容もそれに相当する。
 ここは集落や水利組合などの下部組織がしっかりしており、この下部組織が土地改良施設の維持管理に当たっているという点は庄原市土地改良区と変わらないが、下部組織に対し恒常的な資金援助を行う、或いは比較的大規模な施設の改修に対してはその費用を負担するという形で土地改良区本体と下部組織との間で連携関係が構築されているという点で大きな違いが見られる。
 この下部組織との連携強化、下部組織の活性化というのが、維持管理の充実を目指す中山間地域土地改良区に必要とされる課題であろう。
 なお、阿東町徳佐土地改良区、伊賀町土地改良区、青垣土地改良区も下部組織がしっかりとした維持管理活動を行っており、ここに区分されるような土地改良区のグループに属するのであるが、集落等の下部組織は土地改良区ではなく行政が押さえており、行政主導の下で集落営農が組織されているというのが実態であった。
 下部組織の活動が活発であり、また、行政によって一定程度の組織化が図られているだけに、そこに土地改良区がどのような形で関わることができるかが課題となっている。
  大野土地改良区は、やや毛色が異なる土地改良区である。
 恒常的な水不足地帯のため土地改良区が水田の配水まで完全に統制を行っており、それに必要な人員を土地改良区が職員として確保している。
 土地改良区にはポンプアップ施設もあるが、それ以上に水不足という気候条件が土地改良区を「水土地改良区」たらしめ、地域資源を直轄管理する土地改良区となっているという特殊事例である。
 言うまでもなく土地改良区は地域営農と密接な関係を有しており、中山間地域等直接支払制度の交付金の2分の1は土地改良事業の償還金に充てられることが決まっている。
  最後のグループとして、そして、今回の調査では最優良事例として位置付けられるのが、小田南部土地改良区と玖珂郡周東町祖生土地改良区である。
 両土地改良区ともに中山間地域等直接支払制度に関わる事務手続を代行することで下部組織との密接な連携関係を構築するとともに、今後の地域農業のあり方についても積極的な方向付けを行っている。
 また、両者ともに直接支払制度の交付金の管理も任されているが、将来的にはそれを元手に農道、水路等の土地改良施設や農地等の地域資源を維持管理していくための基金の造成を展望している点も共通していた。
 直接支払制度を契機に土地改良区のうちのいくつかは、地域資源管理のための公益法人へと発展していくことを展望しているし、それなくしては地域資源の維持保全はあり得ないと考えていると見てよいのではないだろうか。


(2)公的セクターとしての性格を強める土地改良区
 −国営潅排地区・平場水田地帯−

 若柳川南土地改良区は、仙台市から北へ70kmに位置する若柳町に昭和60年に圃場整備事業の実施を目的に新設された。
 組合員数865人、地区面積1,023haの大規模な土地改良区である。
 圃場整備を目的として新設された土地改良区ではあるが、整備率は35%にとどまっている。
 地区の範囲が国営附帯県営潅排事業迫川上流2期地区と一致していることからわかるように、むしろ、その主眼は潅漑排水整備にあると見るべきだろう。
 施設の維持管理区分を見ると、土地改良区は県営潅排事業で造成された施設を直轄管理しているが、それ以外の末端施設の管理は町が行っている。
 若柳町のある栗原郡一円には当初から水利組合のような組織はなく、末端施設は全て町が管理者となっているとのことであった。
 水路の草刈りや浚渫等を除けば、土地改良施設は完全に公的セクターによって維持管理されていると考えてよい。
 さらに、土地改良区も将来的には国営潅排事業迫川上流地区10,680haとして統合整備され、この水田1万ha余りにおよぶ土地改良施設は合併土地改良区によって一元管理される予定となっている。
 土地改良区そのものが今後非常に公的セクター的な性格を強めていくことは間違いないものと思われる。
 その結果、土地改良施設については末端施設まで全てが公的セクターによる直轄管理となり、用排水路は半ば上下水道的なものとして農家には認識されることになっていくのではないだろうか。
 その場合は経常賦課金の水準が問題となってくるが、潅排事業だけの地区で10a当たり1,200円、圃場整備事業も実施した地区でも10a当たり2,400円となっており、問題が生じるような金額ではない。
 このように用排水路を上下水道化させていくことができるのは、地形条件に恵まれ大規模工事のスケールメリットが発揮される平場水田地帯ならではの動きである。
 勿論、スケールメリットを享受することが困難な(=合併の効果が現れにくい)中山間地域の土地改良区については、このような方向を目指すことはできないことは言うまでもない。

(3)合併土地改良区が抱える問題
 −下部組織との連携関係をどのように構築するか−

 庄原市土地改良区は、昭和62年に市内19の土地改良区が合併して誕生した1市1土地改良区である。
 組合員数3,129人、地区面積2,067haと中山間地域としては非常に大規模な土地改良区である。
 3人の職員のうち市職員が兼務する1人は圃場整備事業を中心とする土地改良事業の推進に張り付いていることからもわかるように、圃場整備事業を中心とする各種補助事業を全市的に推進していくために合併が行われたと考えてよい。
 市からも工事費に対しては土地改良区を通じて多大な助成が行われている(平成11年度は、121,522千円もの助成金が工事費補助として土地改良区に注ぎ込まれている)。
 一方、土地改良施設の維持管理は全て下部組織に任されており、土地改良区は一切関与していないというのが現状である。
 市職員1人を除けば職員は2人しかいないという物理的な制約もあって、市内に970箇所もあると言われるため池や末端水路を管理するために組織された170の水利組合との連携関係を構築するまでには至っていない。
 土地改良区を合併して圃場整備事業等を積極的に推進していく体制を整えることはできたが、維持管理体制については下部組織任せで、これから土地改良区本体と水利組合との間にどのような連携関係を構築していくかが課題となっているのであり、合併土地改良区が抱える問題をあらわしている典型的な土地改良区と言うことができるだろう。

(4)下部組織との連携関係の構築を目指す土地改良区
  ここで紹介する最初の四つの土地改良区は下部組織との間に何とか連携関係を構築し、曲がりなりにも維持管理に土地改良区が関わっている事例である。
 後の三つは集落等の下部組織がしっかりしており、そこに行政サイドの働きかけも加わったため、土地改良区が中心となることのないまま維持管理体制が構築されようとしている事例である。
 後者の三つは連携関係というよりも、下部組織を再編強化するための方策が参考になると思い、また、今後の連携関係構築の方向を検討する上でも有益になると考え、ここに区分することとした。

(1)玉山土地改良区
 −大規模補修費に対しては土地改良区が負担−
  玉山土地改良区は、岩手県玉山村の農地を主たる受益地とする合併土地改良区である。
 五つの土地改良区が合併して平成10年に新設された。
 組合員数1,170人、地区面積は1,287haで受益農地は玉山村だけでなく滝沢村、西根町、岩手町など3町1村におよび。
 合併して間もないこともあって未だ合同事務所的な寄り合い所帯的な性格が強く、土地改良施設の維持管理は旧土地改良区毎に実施されており、さらに実際は旧土地改良区の下にある集落が費用負担も含めて維持管理を行っているというのが実情である。
 ただし、基幹水利施設の一部は土地改良区の直轄管理となっており、また、多額の費用を要するような補修については土地改良区が負担するという関係が一応構築されている。
 そのため維持管理経費がどうしても膨らむ傾向にあり、平成11年度は維持管理費として29,280千円を支出している。
 そのため経常賦課金も比較的高く、平均で10a当たり6,116円、最も高い所では7,750円となっている。
 なお、町が出している助成金は工事費についてのみであり、町は土地改良事業を実施、推進するための組織として土地改良区を捉えているようで、土地改良区を中心とした維持管理体制を積極的に整備していこうという意図は余りないようだ。

(2)阿蘇土地改良区
 −高い経常賦課金と引き換えに土地改良区が全ての施設を直轄管理−
  阿蘇土地改良区は、県営圃場整備事業で設立された四つの土地改良区を昭和49年に合併して新設した土地改良区である。
 組合員数2,298人、地区面積2,998haという中山間地域にしてはかなり大きな規模を誇っている。
 ここの最大の特徴は、末端水路の草刈り・浚渫については、管内に12ある用水委員会に委託しているものの、それ以外の施設についてはおおかた土地改良区が直轄管理している点にある。
 183箇所ある揚水機場は全て土地改良区が管理しており、そのため土地改良区では38人もの操作員を雇っている(支払労賃は14,613千円にのぼる)。
 勿論、工区毎に圃場整備に併せて担い手育成支援事業を実施するなど末端の用水委員会は地域営農の方向付けを行うための組織として充分機能しているが、維持管理については土地改良区が果たす役割は大きい。
 そのため維持管理にかかる経費は莫大で、平成11年度は維持管理費として125,086千円を支出している。
 こうした活動に対し町は助成金を全く出していないため経常賦課金は平均で10a当たり8,940円、最高9,440円と1万円近くに達している。
 無償の夫役の提供と経常賦課金の金額とは原則としてトレードオフの関係にあると考えられるが、土地改良区が直轄管理に乗り出すと後者の増額につながり、これが農業経営を、特に規模拡大を図る担い手農家を圧迫するという問題を引き起こしかねない。
 ここでは転作田の経常賦課金については半額としているためそれほどではないが、転作率の増大と相俟って「水代」負担が規模拡大意欲に水を差してしまう可能性が各地で高まっていることは間違いないのである。

(3)最上町土地改良区
 −各集落に維持管理費を助成−
  山形県東北部の最上町にある水稲単作地帯の土地改良区である。
 昭和51年に圃場整備事業の実施を目的に新設された。
 組合員数540人、地区面積547haという中規模の土地改良区である。
 土地改良区が頭首工7箇所、機場3箇所、樋門9箇所、幹線水路20kmを直轄管理しているが、残りの末端水路158kmについては12ある集落毎に管理が任されている。
 水利施設に対する認識は広く地域住民に理解されており、年1回の草刈り作業には農家だけでなく非農家も出役するなど、高齢化が進んでいる一部の地域を除けば集落による維持管理体制は充分機能していると言ってよい。
 ここの最大の特徴は末端水路の維持管理を行っている12の集落に対し、小規模補修経費の名目で管理費50万円ずつを交付している点にある。
 この維持管理費の助成によって集落単位の維持管理活動を再編強化しながら、土地改良区と集落との連携関係を構築することに成功しているのである。
 ただし、圃場整備事業が完了して以降は町から土地改良区に対して助成金が出なくなったこともあって、経常賦課金が10a当たり2,000円から3,500円に引き上げられている。
 地域資源の維持管理という点から自治体からの助成金を再度獲得することで土地改良区の財務基盤を充実させ、集落への支援を強化していくことが望まれるところである。

(4)伊勢南部土地改良区
 −小規模な補修費を下部組織に支出−
  伊勢南部土地改良区は、圃場整備事業の実施を目的に昭和55年に新設された。
 組合員数325人、地区面積172haという小規模な土地改良区である。
 小規模ではあるが地形的な制約が大きく、以前から活動していた水利組合は統廃合されることなくそのままの形で残っており、全ての土地改良施設の維持管理を水利組合が引き続いて行っている。
 維持管理に関わる会計処理も水利組合単位で行われている。
 土地改良区は償還業務だけしか行っていないように思われるが、年間総額700千円ほどの助成金を下部組織に渡すことで連携関係を構築しようとしている。
 最上町土地改良区と同じく、今後は地域資源の維持管理という視点から自治体との連携を深めて助成金を獲得し(現在は工事費についてのみ市から助成金が交付されている)、下部組織に支給する助成金を増額することで末端集落の再編強化を図っていくことが課題であろう。

(5)徳佐土地改良区
 −行政の支援で下部組織が集落協定を締結−
  山口県阿東町の旧徳佐村一円の農地を対象に潅排事業の実施を目的に昭和26年に新設された土地改良区である。
 組合員数834人、地区面積890haと中山間地域としては比較的規模の大きい土地改良区であるが水利費の徴収事務を請け負うだけで、土地改良施設の維持管理は実質的には下部組織である用水組合が担っている。
 ここの最大の特徴は土地改良区の受益地域内のうち10地区、670haを対象に集落協定が締結されているという点である。
 ただし、残念ながらこうした取り組みは行政指導の下で進められており、土地改良区は直接関与していない。
 ここに土地改良区も関与していくことが今後の課題であるが、人員体制等の面から難しいというのが実情である。
 なお、集落協定では「水路・農道等の維持管理」のための出役に対し報酬を払うという項目は全ての地区に共通しており、土地改良区主導ではなかったとは言え直接支払制度によって下部組織の再編強化が図られたことは間違いない。
 また、いくつかの地区では農業機械の共同購入と農作業の共同化(特に刈取作業)を取り組み目標として掲げており、土地改良施設の維持管理だけでなく、農地の保全管理も行えるような体制も地区単位で整備される方向にあるようだ。

(6)伊賀町土地改良区
 −末端水利組合の活動が集落協定として規定−
  伊賀町土地改良区は、三重県伊賀町にあった六つの土地改良区を平成5年に合併して新設された土地改良区である。
 組合員数1,500人、地区面積1,172haとかなり大規模な土地改良区となっているが、土地改良区が直轄管理している施設は全くなく、全ての施設が水利組合によって維持管理されている(水利組合の単位は集落よりも小さい)。
 土地改良区は事業実施と償還事務のための組織となっているが、合併に伴い町から助成金の交付を受けていることもあって、旧土地改良区に対し維持管理費の補助として総額120万円を渡しており、資金助成を通じた下部組織との連携関係は一応構築されているようだ。
 ここも集落協定が水利組合単位で締結されているが、ここも徳佐土地改良区と同様、行政主導によるものであって伊賀町土地改良区は直接関与していない。
 なお、ここで注目されるのは直接支払制度の交付金は全て集落共同の取り組みに支出するとされている点であり、これは町の方針だそうだ。
 ある地区の支出の内訳は、集落協定の管理体制における担当者の活動に対する報酬(事務費)が20%、水路・農道等の管理に10%、周辺林地の草刈りや景観作物の作付(多面的機能の増進)に40%、担い手への農作業及び農地の集積推進のための活動費に10%となっていた。
 このうち、「水路・農道等の管理」は水利組合の活動がそのまま集落協定として規定されたものである。

(7)青垣土地改良区
 −圃場整備を契機に工区単位の維持管理体制を確立−
  青垣土地改良区は、兵庫県の中山間地域、青垣町にある組合員数532人、地区面積220haという比較的小規模な土地改良区である。
 県営圃場整備事業を実施するために昭和57年に新設された。
 土地改良区の事務所は町役場の中に設置され、事務局長も町役場の産業課長が兼務するなど、全くの事業実施のための土地改良区であり、現在の業務は圃場整備事業の償還業務のみしか行っていない(職員も事務局長を除けば1人しかいない)。
 土地改良施設は集落を単位とする圃場整備組合が実質的な維持管理を行っており、維持管理は完全に下部組織任せとなっている。
 しかしながら、ここで注目されるのは圃場整備事業を契機にそうした維持管理体制を確立し、さらに町単独事業によって農地管理まで支援する体制が整えられつつある点である。
 青垣土地改良区の維持管理体制は、土地改良区の下にある六つの工区毎に圃場整備組合(一部は水利組合)が設置され、さらにその下に準工区或いは水利組合が組織されている。
 これまで各自ばらばらに維持管理を行ってきた集落や水利組合と言った末端組織が圃場整備事業を契機として土地改良区を頂点とする組織体制に再編成された事例と言うことができるのである。
  また、ここで注目されるのは町単独事業の「豊かな水田育成事業」である。
 これは「農会」(=集落)による農地管理(=農地管理事業)及び集落農業発展のための話し合い活動や先進地視察(=村づくり事業)に対し、町が補助金を交付するというものであり、生産調整の100%達成、地権者より提出された「農地管理申出書」に基づき農会との貸借契約に基づいて経営・管理行為等を行える体制が整っていることなどが要件とされている。
 交付金額は、農地管理事業については、農地管理申出面積10a当たり20,000円を乗じた金額(1農会当たり200千円が上限)、農地管理申出農家戸数に1戸当たり1,000円を乗じた金額となっている。
 この事業は、平成12年3月31日に交付要綱が定められたばかりのため活動はまだまだこれからという段階であるが、直接支払制度とは直接関係なく(町内の直接支払制度対象農地は3地区9.7haしかない)、町単独で集落等下部組織を再編強化するための事業を起こしているという点は高く評価することができるのではないだろうか。
 今後の農会の動向が注目されるところである。
  以上、長くなったが中山間地域の土地改良区は合併したとしても維持管理体制にスケールメリットが発揮される可能性は小さく、ともすれば維持管理の空洞化だけを招来しかねないだけに下部組織との連携を深め、その再編強化を図っていくことが求められているという点は共通している。
 そして、中山間地域の土地改良区の大半は、この(4)に区分されたグループに属しているという状況であろう。
 そしてそのうちのいくつかは中山間地域等直接支払制度の実施を契機に(6)に区分されるグループへと発展を遂げつつあると見ることができるのではないだろうか。

(5)地域資源の直轄管理を担う土地改良区
 −恒常的な水不足地帯における特殊事情−
  やや論旨を逸れるが、高知県田野町にある大野土地改良区は、土地改良区自らが地域資源の直轄管理を行っており、特殊な事情とは言え注目される。
 田野町は、高知市から東へ55kmの距離に位置する純農村地帯である。
 大野土地改良区は圃場整備事業と潅排事業の実施を目的として昭和38年に新設された土地改良区である。
 組合員数262人、地区面積59ha(田野町31ha、安田町28ha)と規模は非常に小さい。
 農地は土佐湾に面した棚田であり、恒常的な水不足地帯である。
 用水は1水系で1滴の水たりとも無駄にしないよう5〜9月にかけては土地改良区の職員2人が付きっきりで地区内725筆の水田の配水管理を行っている。
 水路の清掃や農道の補修は集落が行うことになっているが、土地改良施設の維持管理は土地改良区が一手に請け負っている。
 そのため経常賦課金及び用水使用料が非常に高い。
 前者は10a当たり13,000円にものぼり、後者は水稲で21,600円、オクラや園芸作物で20,000円となっている。
 この負担を軽減するために町では直接支払制度を活用するべく集落協定の締結を推進しているところである。
 土地改良区は、4集落からなるがそのうち2集落は既に平成12年度に集落協定を締結している。
 そして、交付金の使途だが、事務管理経費に250千円が、水路・農道等の管理に交付金総額の2分の1から250千円を除いた金額が、土地改良事業負担金への支払いが交付金総額の2分の1の金額がそれぞれ充てられることになっている。
 この使途を見てもわかるように、直接支払のほとんどが土地改良区への支払いに充当されるものと考えてよいのである。

(6)地域資源管理のための基金積み上げ・公益法人への発展を展望する土地改良区
  今回調査を行った土地改良区の中には、中山間地域等直接支払制度に積極的に関与することで交付金の一部を事務経費としては回してもらい、土地改良区の財務運営に資するとともに、集落共同の取り組みのための積立金を地域資源の維持管理のための活動に充てるための基金として土地改良区が管理していきたいという意向を表明しているところがあったので、以下、順に紹介する。

(1)玖珂郡周東町祖生土地改良区
 −小規模災害復旧の名目で基金を積立−
  玖珂郡周東町祖生土地改良区は、昭和28年に旧祖生村一円の農地を対象に新設された土地改良区である。
 組合員数582人、地区面積434haと規模は中山間地域としては比較的大きい部類に属する。
 現在、平成15年度までの予定で県営圃場整備事業を実施しているところである。
 主な土地改良施設としては頭首工25箇所、機場7箇所、樋門50箇所、水路46km、ため池11箇所などがあるが、これらの施設の維持管理は全て土地改良区の下部組織である水利組合ないしは集落が行っており、土地改良区は維持管理には全く関与していない。
 また、下部組織に対し維持管理費用の助成も行われていない。
 そのかわり経常賦課金は10a当たり平均656円と低い(末端水利組合の用水費はこれとは別であり、揚水施設のある地域では10a当たり4,000円と言うところもある)。
 また、町から交付されている助成金は工事費中心であり、土地改良区は維持管理のための組織ではなく、圃場整備事業の計画設計や事務処理を行うための組織という位置付けがなされていると言ってよい。
 維持管理と言う点では、(3)ないしは(4)の中でも取り組みが初発のもの程度と言うのが現状なのである。
  しかしながら、ここは理事長が地域農業の方向付けに対し強力なリーダーシップを発揮し、土地改良区が祖生地区営農対策協議会の事務局を引き受けるとともに、中山間地域等直接支払制度の推進役として活躍している点が大きく異なり、また、注目される。
 土地改良区が直接支払制度に取り組むことになった背景は、一つに米価低落の下で圃場整備事業の償還対策(6億円の未償還金の存在)を講じる必要があったこと。
 二つには高齢化・農家戸数減少により水路・農道等の共同維持管理の必要性が増しており、自然災害の復旧対策費を積み立てておく必要もあること。
 三つには担い手不足対策として共同作業による集落営農への誘導が求められていること。
 四つにはJAは広域合併してしまったため、地域で農地と人に関する情報が最も蓄積されているのが土地改良区であったことの4点である。
 前三者は直接支払制度に取り組んだ一般的な背景であり、後一者がその事務局を土地改良区が引き受けることになった背景である。
 その結果、5地区、152ha(289人)について集落協定が締結され、その一切の事務を土地改良区が受託することになった(それに伴い土地改良区の定款も附帯事業として事務受託が行えるよう変更された)。
 なお、祖生地区内の集落協定締結は6地区、200haを見込んでいる。
  また、もう一つ注目されるのが交付金の使途である。
 例えば末元地区の集落協定では、総額8,730千円のうち4,400千円を集落の共同活動に、4,160千円を農地の管理面積に応じて個人に配分した上で170千円を事務経費として土地改良区に支払うことが取り決められている。
 さらに集落の共同活動分4,400千円のうち、農地の保全管理に充てられる800千円と水路・農道等の維持管理に充てられる3,000千円については残額を災害復旧のための積立金として残していくことが決められている。
 理事長は「この積立を行うことが集落協定締結の最大の目的」としており、「各協定地区に持分意識があるので難しいが、できれば土地改良区1本で基金を積み立て、管理できるようにしていきたい」と話していた。
 土地改良区は、直接支払制度の交付金を元手に、水路・農道等は勿論、農地までも対象とした地域資源の維持管理を継続的に行うための基金を造成し、その管理運用を担う方向での展開を考えているように思われるのである。

(2)小田南部土地改良区
 −地域資源保全のための本格的な基金を造成−
  小田南部土地改良区は、鳥取県岩美町にある組合員数131人、地区面積70haの小規模な土地改良区である。
 県営圃場整備事業の実施を目的に昭和63年に新設された。
 下部組織は7水系=7水利組合(集落と一致)で、土地改良施設は、全てこの水利組合によって維持管理されている。
 土地改良区が直轄管理している施設はなく、土地改良区は圃場整備事業の償還業務を行っている。
 また、その事務も町内の4土地改良区で組織する合同事務所として行われており、土地改良区は完全なペーパー組織となっている。
 しかしながら、ここも土地改良区が中山間地域等直接支払制度に積極的に関与することで維持管理体制の再編強化に取り組んでおり、注目される。
 集落協定の実施と地域農業の振興を目的として設立された小田南部地区営農組合の事務局が土地改良区に置かれ、集落協定の作成、交付金の申請や配分、会計簿の作成・保管、維持管理等のための積立金の管理といった一切の事務を土地改良区が受託するという関係が築かれているのである。
 集落協定は、小田南部地区1本で締結されており、その範囲は小田南部土地改良区=小田南部地区営農組合のエリアと完全に一致している。
 小規模であるがゆえ土地改良区の受益地区がそのまま集落協定地区となった珍しいケースである。
 また、急傾斜地と緩傾斜地とは区別されているものの交付金は1本としてプールされ、そこから事務委託費として1,000千円が土地改良区に対して支払われることになっている。
 交付金の使途は、集落共同の取り組みに4,000千円、農家個人への支払い5,000千円、土地改良区への事務委託費1,000千円と大きく三つに区分することができる。
 このうち集落共同の取り組みのうち水路・農道等の災害復旧経費や集落環境整備に充てる金額が2,000千円と半分を占め、残金は積み立てられることになっている点は先にみた玖珂郡周東町祖生土地改良区と同様である。
 これに加え小田南部土地改良区=小田南部地区営農組合では、将来にわたる継続的な農業生産活動等を可能にするため組合員から毎年10a当たり2,000円を徴収し基金を積み上げる予定である。
 この基金は、「小田南部地区潤いとキラメキ基金」と命名されているが、同様の基金は、町内の集落協定取り組み地区全てにおいて造成したいというのが町の意向であり、基金の設置・管理・処分に関する規定のひな型が既に用意されていた。
 基金の具体的な使途は(1)道路・水路等土地改良施設の修繕・改良、(2)営農が困難となった農家の農用地の復旧・保全、(3)共同作業用機械の購入等となっており、まさに地域資源保全のための基金としての位置付けがなされている。
 この基金の管理についても土地改良区が事務処理を受託する予定である。

(7)おわりに
  以上が現地調査を行った12の土地改良区の概要である。
 地形的な制約の大きい中山間地域は、平場水田地帯と異なり維持管理施設についてスケールメリットが発揮できる余地は小さく、水利組合や集落等の下部組織との間に連携関係を構築し、下部組織の再編強化を図っていくことが土地改良施設の適正な維持管理にとって、特に大規模な合併土地改良区の場合はなおのこと必要であるというのが、とりあえずの結論となるだろう。
 中山間地域では水系或いは集落が地域資源管理のための物理的な単位となっており、この枠組みを変えるのは非常に困難であるということを忘れてはならない。
  また、中山間地域等直接支払制度を契機に地域資源の維持管理のための基金を造成しようという動きが土地改良区の中に生まれてきている点も注目される事態であった。
 この動きをそのまま延長していけば、地域資源の維持管理のための公益法人の設立ということになるだろうし、土地改良区が担っている実際の役割は、土地改良事業の実施を通じた農業生産力の増進から地域資源の維持管理へと変質してきているだけに、今後はこの方向を積極的に推し進めていくことが求められるのではないだろうか。
 その場合は、当然土地改良区の法的な位置付けの再検討を含め、大幅な制度改正が必要となってくることは言うまでもない。
 こうした現地の動向を踏まえた検討が望まれるところである。

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農林年金の厚生年金への統合法案が成立
先の通常国会へ提出されていた厚生年金と農林年金の統合法案は、6月27日の参議院本会議において全会一致で可決され、政府原案をどおり成立した。
これにより、農林年金は平成14年4月より、厚生年金と統合することが確定した。

統合法案が成立までの経過
2月1日
第9回一元化懇談会で統合条件を合意
7日
最終整理案を決定し、組織協議開始
28日
一元化懇談会の報告書まとまる
3月7日
農林年金制度対策本部委員会・農林年金会議会長合同会議にて最終整理案を決定
8日
第85回定例組合会で統合を機関決定
13日
公的年金制度関係閣僚会議で今後の一元化の推進方針を了承
19日
通常国会に統合法案を上程
6月13日
衆議院厚生労働委員会可決
14日
衆議院本会議可決、参議院送付
26日
参議院厚生労働委員会可決
27日
参議院本会議可決

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土地改良施設管理研修会を開催


本会は、7月19日、栃木県土地改良会館において、会員の役職員等197名の参加を得て平成13年度土地改良施設管理研修会を開催した。
   研修会は、主催者を代表して本会の沼部和弘専務理事が開会挨拶を述べた後、講義に入り後記のカリキュラムのとおり行った。
 なお、受講者に対しては、本会単独事業の土地改良施設管理対策で作成した農業用水の水質浄化及び児童等の転落防止啓蒙用ウチワを配布した。

研修カリキュラム(敬称略)

(1)予算と執行
 栃木県農務部農地計画課
主任 三津間 裕治

(2)施設診断から適正化事業について
 栃木県土地改良事業団体連合会指導部管理課
課長補佐 大森 孝

(3)昨今の土地改良相談事例について
 栃木県土地改良事業団体連合会指導部指導課
部次長兼課長 相良 修


昼食後「農業水利施設の管理に向けて」のビデオを上映

(4)ポンプ設備診断
 関東農政局土地改良技術事務所施設管理課
施設機械係長相馬淳夫

(5)ゲート設備診断
 関東農政局土地改良技術事務所施設管理課
施設管理係長 河野 康輔

(6)電気設備診断
 関東農政局土地改良技術事務所施設管理課
課長 長尾 隆

(7)工事完了及び確認検査
 関東農政局土地改良技術事務所施設管理課
課長 長尾 隆

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農業農村整備事業推進懇談会を開催


 本会及び栃木県土地改良事業推進協議会(会長・小坂利雄真岡市中央土地改良区理事長)の共催による農業農村整備事業推進懇談会は、各地方土地改良事業推進協議会及び栃木県各農業振興事務所等関係機関のご協力のもと、去る6月5日の那須管内を皮切りに7月17日の南那須管内まで延べ8日間にわたり、市町村及び土地改良区等の役職員363 名の参加を得て開催した。
 会議は、来賓として県から各農業振興事務所農村振興部長はじめ担当官及び各地方土地改良事業推進協議会長等を招き、それぞれご挨拶をいただいたほか、各農業振興事務所には、(1)平成13年度農業振興事務所管内の事業の実施についてご講演をいただいた。
また、本会からは、(2)土地改良法の改正、(3)今後の農業農村整備事業の推進、(4)土地改良区の統合整備、(5)21世紀土地改良区創造運動について本会職員が説明した後、これらを含めて土地改良事業全般及び本会運営に関する意見要望をいただくなど活発に意見交換を行い、有意義な懇談会となった。

意見要望等の概要については、次のとおり。

◆農業集落排水事業関係
 市町村の財政が逼迫している中で、農業集落排水事業の地元負担が大きいために取り組みにくい面があるので、補助制度の改善を求める要望。
◆土地改良区統合整備関係
 合併を進める上での問題の解決方法やマニュアルの作成に関する要望。
◆土地改良施設管理関係
 用排水路のゴミの処分に関する質問。
◆土地改良法改正関係
 環境に配慮した事業の展開方向に関するもの。
(意見・要望)や土地改良組の地域資源管理
団体として法的位置付けに関する要望。
◆農道整備関係
 基幹道路の整備に関する補助制度に関する質問。
◆圃場整備事業関係
 簡易な圃場整備事業の実施や創設用地換地の取得者に関する質問。
◆その他
 環境に配慮した事業の推進、コメの需給見直し、農業・農村の将来像に関する意見・質問。

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農業基盤整備資金の金利改定
 平成13年7月3日付で、農林漁業金融公庫の農業基盤整備資金の貸付利率が次のとおり改定されました。

区 分現 行改 定
補助事業県 営1.65%1.55%
団体営1.50%1.40%
非 補 助一 般1.50%1.40%

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平成13年7月主要行事報告
行  事
2都道府県土地改良事業団体連合会会長・事務責任者合同会議
2安足管内農業農村整備事業推進懇談会
3関東地域技術情報連絡協議会
3〜5換地関係新規担当職員研修会
6栃木県土地改良事業団体連合会OB会第3回通常総会
9第2回監事会(平成12年度決算監査)
10土地改良事業推進事務担当者会議
10工事共通仕様書(平成13年版)講習会「建築工事」
11食料・環境・ふるさとを考える栃木県地球人会議幹事会
12利根川水系農業水利協議会栃木県支部幹事研修会
16第二種電気工事士技能講習会
16「農村環境技術研修」生態系保全(基礎)コース
17「農村環境技術研修」環境教育(基礎)コース
17第43回全国土地改良団体職員研修会
17南那須地域土地改良事業推進協議会定期総会
17南那須管内農業農村整備事業推進懇談会
18第1回農業農村整備事業システム化推進調査業務説明会
18栃木県土木部課程外専門研修・農務部・林務部専門研修「公共工事の労働安全衛生研修」安全管理講習会
19土地改良施設管理研修会
31第2回理事会

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表紙写真説明
表紙の写真『たわむれる』

○撮 影 者
 佐海 忠夫 氏(真岡市在住)

○撮 影 地
 塩谷郡喜連川町

○コ メ ン ト
 平成12年度「美しいとちぎのむら写真コンテスト」農業農村整備部門で優良賞に輝いた作品です。
 喜連川町は、いくつもの湧水があり、町を流れる堀の水が奇麗なことで知られており、城下町の風情を残す路地裏のお堀には、鯉が泳ぎ町民の憩いの場を提供しています。
 広角レンズを使用して錦鯉の泳ぐ姿を強調し、シャッターチャンスも良かったと思います。
 

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