『水土里ネットとちぎ』は本会の愛称です

『ヒガンバナの里』
−主な内容−

宇都宮市鬼怒川左岸の5土地改良区が
合併予備契約書に調印


土地改良区強化対策に関する
調査報告書(その1)


全日本中学生水の作文コンクール栃木県審査会優秀賞「水に対する関心」


土地改良水利施設の維持管理−ごみ対策−

平成16年9月主要行事報告

表紙写真説明



宇都宮市鬼怒川左岸の5土地改良区が合併予備契約書に調印
 宇都宮市内の鬼怒川左岸にある「板戸台」、「十一ケ字」、「飛山」、「氷室」、「板戸」の5土地改良区は、去る9月29日、宇都宮市内において、福田富一宇都宮市長、田辺繁樹栃木県農務部参事兼河内農業振興事務所長の立ち会いのもと、合併予備契約書の調印式を挙行した。
 5土地改良区は、本年12月までにそれぞれ総会を開いて合併を承認し、新土地改良区設立委員を選出する。その後、同委員会が関係法令に基づき、合併に関するすべての事務を行い、来年1月に鬼怒川左岸土地改良区としての設立を目指すこととしている。宇都宮市内では、初めての合併となる。
 農業・農村を取り巻く環境が年々厳しくなる中、組織の一本化により、土地改良区の活性化や運営基盤の強化、事務の合理化による経費節減を図るのが目的である。
 5土地改良区は、既に農業用用排水等の維持管理に移行している。このため5土地改良区は、合併推進協議会を設置して、統合に向けた整備計画書づくりなどを進めていた。



総合整備の概要
旧改良区名面  積役員数総代数組合員数事業概要
板戸台173ha22人 -人241人維持管理
十一ケ字209ha19人32人415人維持管理
飛山234ha18人 -人296人維持管理
氷室43ha13人 -人72人維持管理
板戸70ha16人 -人147人維持管理
合計729ha88人32人1171人重複283人
新土地改良区686ha12人40人888人重 複 43ha

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土地改良区強化対策に関する調査報告書(その1)
―末端農業用排水施設(水路等)の管理の実態調査―


 近年、我が国の急速な経済成長に伴って、農村を取り巻く環境は、農村地域の都市化・混住化の進展や農家の減少、高齢化の進行などに加え、国際化の進展による農産物の価格の低迷などにより、農業経営が厳しい状況になっている。
 現在、土地改良区においては、費用負担を過重とする新規事業意欲の減退、施設管理に対する意識の欠如、さらには末端管理組織の衰退が進行し、土地改良区の運営に重大な支障が生じつつあるとの声が聞かれる。
 そうした中で、土地改良区は、土地改良事業の実施において中心的な役割を担っているほか、農村地域における水と農地の管理主体としての役割が期待されている。土地改良区がその役割を果たすためには、今後における安定的な運営基盤を築くことが必要であり、そのためには、運営基盤の強化と地域と連携した維持管理体制の整備が喫緊の課題となっている。
 こうした背景から、全国水土里ネットは、全国土地改良資金協会からの委託により、土地改良区強化対策に関する調査を行い、土地改良区における末端施設を含む維持管理体制の整備状況及び地域との連携状況を把握することにより、今後の土地改良区の強化方策の検討資料とするものである。
 一方、農林水産省の平成17年度概算要求においては、重点事項の一つとして「農地・農業用水等の資源を適切に保全管理する施策体系の構築に向けた調査・検討」が掲げられており、地域の創意工夫による多様な取組みを基本とした資源や、農村環境の保全活動に対する支援策を具体化しようとするものである。土地改良区においては、従来から実施している末端施設の水利組合や集落による管理の在り方が、これからの重点検討事項として取り上げられるものと考えられる。
 今回の調査は、「すべての施設を土地改良区が直轄管理している地区」及び「すべての施設を下部組織が管理している地区」のそれぞれ100地区の計200地区を選定し、アンケートにより末端施設の管理状況の現状と問題点を調査するとともに、その中から20地区を抽出し、現地において聴き取り調査を実施し、考察と現地実態調査の取りまとめを茨城大学農学部の安藤光義助教授が行っているので、今後の土地改良区に運営に極めて貴重な資料になると思われる。
 そこで、調査報告書の一部ではありますが、「末端施設管理の現状と課題」につきまして、今月号に「末端施設管理実態アンケート調査結果のポイント」を、次号に「現地実態調査結果の概要」を紹介します。

末端施設管理の現状と課題
1.末端施設管理実態アンケート調査結果のポイント

茨城大学農学部助教授 安 藤 光 義

(1)はじめに
 このアンケート調査は、全国土地改良事業団体連合会が平成13年度に実施した「土地改良区運営実態調査」において、専任職員が1人以上いる土地改良区のなかから、「全ての施設を土地改良区が直轄管理している」と回答したものを100、「全ての施設を下部組織が管理している」と回答したものを100、合計200を選定し、その末端施設の管理状況の現状と問題点を調査したものである。回答を得られたものは173改良区であり、このうち有効回答を得られたのは167改良区であった。調査結果の細かな数字については後掲の結果一覧を参照していただくことにして、ここではこのアンケート調査で明らかになったと思われるポイントを簡単に紹介することにしたいと思う。

(2)下部組織に依存している末端施設の維持管理
 各土地改良区の維持管理計画書に定められている土地改良施設の管理方法をみると、「全部を土地改良区で管理」している割合は29%に対し、集落や水利組合等の下部組織が管理している割合(「基幹施設は土地改良区、末端施設は水利組合または集落で管理」「基幹施設は土地改良区、末端施設は水利組合または集落と市町村で管理」「全ての施設を水利組合または集落で管理」の合計)は65%と3分の2近くを占めている。また「全ての施設を水利組合または集落で管理」している改良区も29%もある。こうした数字は末端施設の維持管理のかなりの部分は集落や水利組合などの下部組織に依存しているということを示しているのであり、下部組織の健全な活動が維持されなくては末端施設の維持管理も十分には行われないといってよいだろう。

(3)地域差の存在−西日本で高い下部組織への依存度−
 末端施設の維持管理についてもう一つ指摘できるのが地域差の存在である。北海道は「基幹施設は土地改良区、末端施設は水利組合または集落で管理」が50%で最も多いが、東北、関東、北陸は「全部を土地改良区で管理」が最も多く(同率1位を含む)、順に45%、43%、32%となっている。これに対し、西日本は「全ての施設を水利組合または集落で管理」が最も多く、東海50%、近畿61%、中国四国59%となっており、北陸も32%と「全部を土地改良区で管理」と同率1位となっている。九州は北海道と同じく「基幹施設は土地改良区、末端施設は水利組合または集落で管理」が46%で最も多いが、「全ての施設を水利組合または集落で管理」も29%と決して低い数字ではない。(1)基幹施設と末端施設とで維持管理の分業体制が敷かれている首都圏からの遠隔農業地帯(北海道、九州)、(2)土地改良区直轄管理が相対的に多い東日本、(3)下部組織による管理が多い西日本という地域差がみられるのである。こうした地域差は集落構造の地域差を反映したものであると考えられ、末端施設の維持管理体制を論じる場合、このような社会構造の違いを十分考慮する必要があるのではないだろうか。
 なお、受益面積規模あるいは専任職員数といった土地改良区の規模による違いをみると、受益面積規模の小さい改良区ほど、また、専任職員数の少ない改良区ほど「全ての施設を水利組合または集落で管理」している割合が高くなっており(受益面積300ha未満の改良区で64%、専任職員1人の改良区で67%)、小規模な改良区ほど下部組織に維持管理を依存しているという結果も出ている。また、農業地域類型別でみると「全ての施設を水利組合または集落で管理」している割合は山間農業地域で高く、78%にのぼっている。こうして数字の背景には、西日本では中山間地域に小規模な改良区を多く抱えていることがあるかもしれない。

(4)末端施設の管理を担う下部組織の地域差
 末端施設の管理を担う下部組織にも地域差が存在している。ただし、ここで注意しておかなくてはならないのは水利組合である。というのは、北海道における水利組合は用水系統によってしっかりと組織された集落よりも大きな組織であるものが多いのに対し、都府県におけるそれは集落よりも小さな組織であるケースが多いという違いからである。このことを頭に入れておくと、「末端施設は主として水利組合が管理している」割合が最も高いのは北海道(83%)、中国四国(45%)であるが、その中味は全く異なっていることが理解されるであろう。北海道は機能的に組織された水利組合が末端施設を管理しているのに対し、中国四国では数戸程度で組織された小さな水利組合が末端施設を管理を管理しているのである。このことは農業地域類型別でみると「末端施設は主として水利組合が管理している」割合が山間農業地域においては67%と圧倒的に高くなっていることと重ね合わせて考えるとよく理解できるのではないだろうか。中国四国は厳しい自然的地形的条件の制約から集落よりも小さな脆弱な下部組織によって末端施設の維持管理が行われているとみることができるのである。なお、近畿で「末端施設は主として水利組合が管理している」割合が33%と高いのは、中国四国と同様の状況があるのかもしれない。
 近畿の状況をこのように理解することができれば、末端施設の管理組織についても東と西とで地域差があるとみることが可能であり、西日本は概して「末端施設は主として集落が管理している」割合が高いといえるのではないだろうか(北陸43%、東海63%、九州46%)。東日本は「家」の独立性が強く、集落は本家分家関係で構成されていてまとまりが弱いのに対し、西日本は比較的「家」がフラットな関係にあり、「村」がきっちりとした構造をもっているという違いがあることが一般的に指摘されているが、そうした社会構造の違いは末端施設の管理体制にも違いとなってあらわれるように思われるのである。

(5)末端管理組織の位置づけの地域差
 こうした地域差は末端管理組織の位置づけの違いにもあらわれている。北海道は水利組合が機能集団として意図的に組織されていることを反映して「水利組合または集落が管理するよう総会等で図り、管理組織として位置づけている」とする割合が67%と高いのに対し、都府県では「特段の取り決めはないが、旧来から水利組合または集落が管理してきている」とする割合が高くなっているという違いを第一に確認することができる。第二に、その割合は東北45%、関東39%と東日本は低いのに対し、北陸は57%、東海は少し下がって50%だが、近畿は78%、中国四国68%、九州67%と西日本は高くなっているという東西差を確認することができる。この東西差は前述したような歴史的に形成されてきた社会構造の違いに加え、戦後、大規模な土地改良事業が積極的に展開されたのは東日本においてであり、この土地改良事業によって末端管理組織が集落とは直接的には関係のない機能的なものへと再編されるドライブがはたらいたことも影響しているのではないだろうか。なお、大規模な改良区ほど「水利組合または集落が管理するよう総会等で図り、管理組織として位置づけている」とする割合が高くなる傾向にあるが、これは大規模な改良区は北海道を含む東日本に多いことと、合併によって誕生した大規模土地改良区は下部組織を制度的に位置づける必要があることなどが影響した結果であると考えられるだろう。
 こうした末端管理組織の位置づけの違いは、草刈・浚渫作業実施の指示体制の違いにもなってあらわれている。基本的には「旧来から慣行で水利組合または集落が自ら実施している」が全国平均では66%と3分の2を占めており、自生的・自主的な維持管理作業が行われているのであるが、この割合は西日本ほど高い(東北42%、関東48%に対し、北陸57%、東海88%、近畿100%、中国四国86%、九州79%)。これに対し、「広報や地区委員を通じて徹底している」とする割合は東北(39%)、関東(39%)など東日本で高くなっている。これと、農業地域類型別にみると平地農業地域で、受益面積規模別および専任職員数規模別でみるとその規模が大きな改良区ほど「広報や地区委員を通じて徹底している」とする割合が高くなっていることとを重ね合わせて考えると、戦後、土地改良事業が積極的に推進された東日本・平地農業地帯では末端管理組織の機能集団への再編が進んだ結果を示しているように思われるのである。

(6)末端施設の管理状況
 全国的にみると末端施設の管理状況は「全部が良好に管理されている」が29%、「大部分が良好に管理されているが、一部は十分ではない」が65%で、両者を合わせると94%となっており、末端施設は比較的良好な管理状態に置かれているといってよい。ただし、この管理状況にも一定程度であるが地域差が存在している。1点目として、北海道では「全部または大部分で十分に管理されていない」とする割合が17%と2割近くに達している点を指摘することができる。この北海道の状況は、6事例中の1事例でしかないのでこのように言うことには問題は残るが、担い手に農地の集積が進んだ将来における末端施設の管理状況を示唆しているとも捉えられるだけに興味深い。2点目は、「全部が良好に管理されている割合」が最も高いのは北陸(50%)であるが、全体としてみると、東日本よりも西日本でその割合が高いという点である(東北11%、関東22%に対し、北陸50%、東海38%、近畿33%、中国四国36%、九州29%)。集落が末端管理組織となっており、それがしっかりと機能している地域ほど末端施設の管理状況は良好であるということであろう。そういう意味で末端施設の管理状況の良し悪しは、良い意味でも悪い意味でも農村社会のまとまりの度合いを反映したものと言えるかもしれない。なお、受益面積規模でみると、「全部が良好に管理されている」割合は受益面積300ha未満の小規模な改良区が52%と突出して高くなっている点も注目される。仮に小規模な改良区ほどまとまりがよく、末端施設の管理状況が良好であるとすれば、合併による改良区の大規模化は管理水準の低下をもたらしかねないということになるからである。
 末端水路の状況についても地域差がみられる(表2−26)。ヘドロ・ゴミ等の堆積物が「堆積しているところが相当ある」とする割合は全国平均では26%であるが、関東(39%)、中国四国(36%)、九州(42%)がそれを上回っている。東北(24%)、近畿(22%)も比較的高い値を示しているが、これは次のように解釈することができる。全体的には管理水準は西日本の方が高いが、都市化が進んでいるところでは末端水路の管理状況は悪化する傾向にあるとともに、過疎化が進行する地域では管理が行き届かず同じく末端水路の管理状況は悪化する傾向にあるということであろう。なお、「ほとんどの末端施設で堆積していない」割合は、集落がしっかりしている北陸(36%)、小規模な水利組合が管理にあたっている中国四国(23%)が全国平均を上回っている。

(7)出役による末端施設の管理
 出役による末端施設の管理にも地域差を確認することができる。出役による管理を「全部の末端施設で行っている」割合は全国平均だと35%であるが、東北18%、関東13%と東日本は低いのに対し、北陸46%、東海50%、近畿39%、中国四国45%、九州42%と西日本では高くなっている。きっちりとした集落が存在しているところほど出役によって末端施設の管理が行われているということであろう。農業地域類型でみても、都市的地域32%、平地農業地域31%に対し、中間農業地域40%、山間農業地域56%という違いがあり、改良区の規模が小さい中山間地域ほど改良区直轄の下での出役体制あるいは集落や水利組合などの強制力が強くはたらく結果、その割合が高くなっているとみることができるだろう。受益面積規模別でみても、受益面積300ha未満の改良区では出役による管理を「全部の末端施設で行っている」割合が52%と突出して高くなっていること、専任職員数でもその数が少ないほどその割合は高く、専任職員が1人の改良区では63%になっているということは、このことを裏付けているのではないだろうか。
 出役の範囲だが、全国平均でみると非農家も含む集落が「相当ある」が13%、「少しはある」が40%となっており、両者を合わせると半分を超えている。この両者を合わせた割合が50%を超えないのは北海道(17%)、東北(42%)、九州(46%)の3つであり、専業的な農家が相対的に多く残っているところでは農家だけで出役が行われているとみることができる。農業地域類型別にみると非農家を含む集落が「全くない」とする割合は、都市的地域(54%)と山間農業地域(67%)の両極で高くなっている。都市的地域では非農家の出役を求めるのは非常に困難な状況にあること、山間農業地域では集落のほとんどが農家であり、管理すべき範囲も小さいため農家だけで対応される傾向にあることを反映した結果であろう。
 ただし、出役の参加状況は必ずしも良好というわけではない。全国平均でみると「最近、出役に参加しない者が多くなってきている」とする割合は29%と3割近くにのぼっており、専業的な農家を数多く抱える北海道で60%、それに次ぐ農業地帯である東北で33%、九州も29%と高い値となっている点は大いに気にかかるところである。農業地域類型別でみても、構造政策の主戦場となる平地農業地域のその値は32%となっていることから、担い手への農地集積が出役による維持管理をますます困難なものとしていく可能性が高いということができるだろう。出役者の不足という問題は、集落がしっかりとしている北陸(31%)でも発生しており、土地持ち非農家の増加は管理水準の低下につながっているわけで、現在の集落に依存した体制も将来的には限界があると言わざるを得ないのである。このことは出役に参加しない原因をみても確認することができる。表に出されているのは全国平均の数字だけであるが、「農家の高齢化により、作業出役が困難になってきている」が最も多いのは当然のこととしても、「担い手に農地を貸した土地持ち非農家が多くなってきている」がこれに次いでいることはその証左であろう。こうした出役による集落管理体制の弱体化は必然的に業者請負という外部委託を増加させることになることが予想されるのである。

(8)業者請負による末端施設の管理
 業者請負による末端施設の管理はそれほど進んでおらず、全国平均でみると「全部の末端施設で行っている」1%、「大部分の末端施設で行っている」2%、「一部の末端施設で行っている」23%で3者を合わせても26%という状況にある。しかし、地域別にみると、北海道33%、関東43%、近畿28%、九州33%の4つが高くなっている。北海道と九州についてはその理由は分からないが、関東と近畿は都市化の影響であることは間違いなく、今後予想される非農家世帯の増加は出役による維持管理を困難なものとし、業者への外部委託が増えていき、それが維持管理コストを顕在化させ、費用負担を増加させていくことが予想されるのである。ただし、農業地域類型別でみると都市的地域は22%とそれほど高くはなく、むしろ、平地農業地域が33%と高くなっている。担い手への農地集積が進み、末端施設の管理が行き届かなくなっている平地農業地域ほど業者請負が進んでいるという実態は、受益面積規模が大きい改良区ほど、組合員数の多い改良区ほど、また、専任職員数の多い改良区ほど業者請負の割合が高くなっているという実態と重ね合わせて考えてみると、自然的地形的条件から大規模な用排水管理体制を確立することができる地域においては土地改良区の上下水道機関化が進む可能性があると言えるわけで興味深い。
 業者請負管理に至った経緯をみると、「最近、業者請負となったものが多い」が86%と圧倒的であり、農業地域類型別でみると中間農業地域と山間農業地域でその割合はともに100%となっている。その理由は、高齢化や農家戸数の減少等によって出役者の確保が困難になっていることであると推測されるが、調査結果をみると「出役する人が少なくなってきた」する割合も高いが、それ以上に「素人の作業では困難になってきた」とする割合が高くなっているという点が注目される。単なる労力不足という以上の問題が末端施設の維持管理において発生しているということは、非農家も含めた「頭数」を確保すれば維持管理が行われるということには必ずしもならず、そこには何らかの技術的な支援体制が必要だということになるからである。
 業者請負からさらに進んで市町村管理に至った改良区も僅かであるが17ある。この市町村管理も「最近、市町村が行うようになったものが多い」とする割合が59%と最も高く、土地改良区が全ての維持管理を担い切れなくなっている状況を示している。また、その理由をみると生活雑廃水の受け入れをあげるところが多く、用排水路が下水道化しているところは市町村管理に移行する傾向にあり、そうした改良区は都市的地域を中心に、あるいは農村地域であっても市街地を流れる開渠水路については、こうした事態が進むことが予想されるのである。

(9)管理費用の分担状況
 出役でも非農家を含めた「頭数」の確保は重要な課題となっているが、費用負担という点ではどうであろうか。全国平均の値をみると、非農家にも管理費用を分担させている水利組合等がある地区は「相当ある」が7%、「少しはある」が19%で両者を合わせると26%になっている。これを地域別にみると、北海道17%、東北8%、関東13%に対し、北陸33%、東海13%、近畿34%、中国四国55%、九州33%と、西高東低になっている。こうした地域差は集落の強弱を示したものとして興味深い。
 出不足金の徴収については集落規制との関係を明瞭に確認することはできないが、それでも「大部分の集落等で徴収が行われている」割合は、近畿28%、中国四国55%、九州38%で高くなっている。ただし、東日本では東北が37%と高い点が注目される。それは置いておいたとしても、全国平均でみても「大部分の集落等で徴収が行われている」と「一部の集落等で徴収が行われている」を合計した割合は67%と3分の2にのぼっており、出不足金の徴収はかなり一般的なものとなっているということができる。
 一方、日当の支払いについては全国平均で「大部分の集落等で支払われている」19%、「一部の集落等で支払われている」8%で両者を合わせても27%という状況にある。地域差も大きく、北海道(50%)を除けば、北陸46%、近畿34%、中国四国32%など西日本でその割合が高くなっている。このなかでは北陸の高さが特筆される。
 末端施設の管理に対する助成金の交付状況は、「していない」が62%と圧倒的に多い。末端管理組織の多くは自前での運営を強いられているということなのである。ただし、農業地域類型別にみると都市的地域で「している」とする割合が43%と高くなっている。地域的にみても、関東43%、東海50%、近畿39%など都市化が進んでいるところでその値が高くなっていることから、組合員の機会費用が高く、また、生活雑廃水の受け入れが進んでいるところほどその対策として末端管理組織への助成金が交付される傾向にあると言うことができるかもしれない。なお、助成の内容であるが、61事例中52事例が「金銭助成」となっており、圧倒的に多い。

(10)末端水路管理における問題
 末端水路管理について土地改良区に苦情等が寄せられたことの「ある」割合は、東北(55%)、関東(61%)、中国四国(55%)、九州(50%)で高くなっている。
 この具体的な内容をみると「末端ほ場に水が来ない」と「ゴミが堆積して困っている」が半分以上となっており、水路が詰まってしまって使いものにならなくなり、営農面、居住環境面の両面で問題を引き起こしている結果が出ている。個別具体的な意見をみると、「生産調整による耕作放棄→水路管理の放棄→末端水路の機能不全」という経路で問題が発生していることが確認される。新しい米政策によって水田農業はますます厳しい状況を迎え、需要量以上の米を供給している水田は切り捨てられることになっていけば、この末端水路の管理問題は今以上に大きな問題となることは間違いない。
 こうした末端水路管理の悪化は基幹水路の管理にも悪影響を与えている。具体的には「末端水路の管理が悪いため土地改良区の水が溢れる」「十分な水を流しても末端水路では水が不足している」「末端水路の管理まで土地改良区が管理を行わざるを得なくなっている」などが問題としてあげられる割合が高い。毛細血管の目詰まりが動脈本管にも悪影響を及ぼし始めていると言ってよい。このような事態を打開するためには、非農家も含めた参加を実現することで「頭数」を確保すること、外部委託によって効率的な維持管理体制を確立することなどが具体的な対策としてあげられている。
 いずれにせよ、これまで集落に依存することで潜在化していた費用が、それではもたなくなってきたことによって顕在化してきているというのが末端水路施設の管理についての問題であり、これを非農家も含めた「頭数」の確保やボランティア出役の確保によって再度社会に埋め込むことで潜在化させた形での処理を目指すのか、あるいは、全てを顕在化させたうえで、可能な限りそのコストダウンを追求できるような維持管理体制の確立を、追加的はハード工事の実施も含めて目指すのか、という岐路に末端水路の維持管理問題は差し掛かっているといって間違いない。

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全日本中学生水の作文コンクール
栃木県審査会優秀賞

「水に対する関心」

作新学院中学部2年 岩 見 朱 里


 弟が、まだ2歳くらいの時胃腸炎にかかり、食べ物も水さえも受けつけなくなったことがあります。病院で点滴を受けることになるのですが、小さな足に痛々しく管が通され、その先には水の薬がチタチタと落ちていました。この水の薬の一滴一滴が弟の体を回復に導き、点滴が終わるころには、すっかり顔色が良くなりました。そして、水分を取ることが許され、小さじ1杯の水を含んだ時、極限に達していたしわしわの口びるは、みるみるうるおってきました。私はこの時、幼いながらも水は、生命を担う大切なものと感じとることができました。
 蛇口をひねれば、思う存分飲める水が出てきます。そんな恵まれた生活に慣れきってしまって、水のありがたさなど、災害や何かことが起きない限り、お座なりになりがちです。だから平気で、食べ残しや洗剤を流し、この先どうなるのかの責任も感じない程、無頓着になってしまっているのではないでしょうか。水の汚染を防ぐにはどうしたら良いのか、個々の家庭で考え、実践していく必要があると思います。我が家では、皿に付いた汚れ、油、汁物などは紙でふき取ってから洗うことや、細かい生ゴミが流れないように、排水口にはストッキング状のネットで覆うなどの工夫をしています。まだまだ気づかない方法がたくさんあると思います。そこでインターネットや広報誌など情報交換ができる場を設け、こんな方法があったのか、と感心を持つことが大切だと思います。
 水は限りある資源だという認識も必要だと思います。太陽の熱エネルギーは、海の水を蒸発させ、やがて雨雲となって雨を降らせます。一部は地下にしみ込み川に流れ、そして海へと帰ります。また一部はダムに集められ、私達の飲み水となります。この水の大循環が行われなければ、水は絶えてしまいます。私達に出来ることは、この自然の法則を壊さないことだと思います。地表に降った雨を地下に浸透させるには、土を大切にしなければなりません。コンクリート化した都市では、地下水が枯渇していると言われています。幸いにも私の住んでいる町の近くには、寺山や尚仁沢といった、わき水が出る、自然豊かな森林があります。休みの日ともなると、遠くからポリタンクを積んだ車が列をつくる程です。その水は、冷たくてくせがなく、大変おいしいです。尚仁沢で作られた豆腐は、人気があるようです。それは、やはり水が良いからだと言われています。森林は、雨水を受け止める、大きな器だと私は思います。ですから、自然破壊をせぬよう、汚さぬよう、私達が気を付けて守っていかなければならないのではないのでしょうか。また、各家庭でも、水の節水を実行し、メーター表をチェックし、前回と比較してみるなどの関心を持つことが必要だと思います。以前にモンゴルの暮らしを紹介したテレビを見たことがあります。水道が通っていない生活は、私の目には大変不自由に映っていたのですが、大きなバケツにためた水で全てをまかなっている姿がありました。顔を洗うにも、片手1杯の水で上手に洗っていました。ヤギなどの家畜にあげる水も同じバケツの水です。そしてヤギの乳の恩恵を受け、動物と自然とうまく共存し無駄のない暮らしでした。日本の昔の生活も同じ様ではなかったと思います。便利な生活を手に入れた分、何かを失っているような気がします。私達は、現代に限らず後世の人達の為にも、きれいで豊かな水を守っていかなければならないと思います。皆が水に対する知識と関心を持つことが必要なのではないでしょうか。

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土地改良水利施設の維持管理 ―ごみ対策―
水土里ネット鬼怒中央
(鬼怒中央土地改良区連合)
事務局長 岩 本   大


 さぁ〜て、寝るとするか。
 NHKの新選組も終った。近藤 勇役の香取慎吾もごひいきなのだ。
 新選組の陶酔の余韻を持って床につき、安眠・熟睡することが、私の週末の過し方なのだ。健康保持の秘訣なのだ。
 突然、ビンボーンッ、ビンボーンッ、ビンボーンッ。玄関のチャイムが怒鳴り出した。
 私の顔が歪んだ。招かざる客は誰か、決っているのだ。「多摩」なのだ。
 私は、天井を仰いでフゥッーと大きく息を吐いた。家内にも伝染してフゥと小さい声を出した。
 家内は、玄関までの長〜い廊下をゆっくり進み、「こんばんは」と溜息混じりの声を出した。
 多摩は、無言でチョットだけ頭を下げ、ズコズコと汚い素足で茶の間に入って来た。何時もの通りだ。
 ヤツは、ずんぐりむくっくり、酒好きで顔は赤銅色。50才半ばだが禿げ頭なので10歳は老けて見える。口の周りにツンツンと真直ぐな髭があるので、我が家では多摩と呼んでいる。多摩ちゃんに似ているが、可愛いくない。憎たらしい。
 ヤツの親父は、脳溢血で早死した。ヤツも間もなく死ぬだろう。
 ヤツは、醤油をブッ掛けたお新香だけで、冷酒を何杯でも飲むのだ。
 今夜も酒臭い。酒をたしなまない私は飲ンベェは大嫌いだ。
「理事長よぅ…あれじゃァ困っぺぇ。何とかしなくちゃよぅ。」
「・・・・・・」
「理事長のくせして、どうする気だぃ」
「何をだネ」 私はつけっ放しのテレビから目を放さずにウスラ返事をした。
「ごみだよ、ごみ。水路のごみだよ。何であんなにごみが流れて来るんだい」
「それは皆んなが、ごみを捨てるからだよ。捨てなければ流れて来ない」
 木で鼻を括ったような、喧嘩のタネを蒔くような硬い声で返事をしてやった。
「理事長のくせして、のん気なごと言って。何とか手を打たなくちゃ駄目だんべぇ。
 空缶やペットボトルならまだいいョ。犬の死骸だのボッコレ自転車だの何で流れて来んだんべぇッ。
 犬が投身自殺する訳は無ぇッ。自転車が風に飛ばされて、背丈近いフェンスを越して水路に落ちる筈が無ぇッ。誰かが投げ捨てたんだんべぇッ」
「おめぇに言われなくても、判っている。それなりの対応はやっている。理事長としての職責は果たしている。」
 ヤツと問答していると、ヤツのペースにはまってしまう。
 教養人の私と、無知なヤツとは端から相性が悪い。
 ヤツの語尾を伸ばす言い方が嫌いだ。加えて、水戸黄門に出て来る悪代官と同じ発声だ。豚が扁桃腺を患ったような声を出す。
 ヤツは、頭が悪いくせにナンヤカンヤと口ばしを入れたがる。父親の悪い遺伝子を受けたのだ。
 私は、戦意を鼓舞するためにも、自信をもって言ってやった。汚い胸元目掛けて言い放った。
 水路脇に「ごみ捨て防止の看板」を50枚も設置したこと、地域住民に対して「ごみ捨て防止のチラシやティシュやタオル」を何百と配布したこと。種々の行事・会合等には啓蒙・普及等をウンザリするほど実施したこと、地域住民の意識もモラルも徐々に好転していること。等々について、トーンを1つあげて講演した。
 私の発声は、黄門様に良く似ているし、品があって説得力があるのだ。
 印籠を見せれば、ヤツは直ぐぅに退散するのだが・・・・・・しない。
「ホンナごど言ったって、現にごみが減らなくちゃァ何にもなんめェ。啓蒙普及だのモラルの向上だの、ナマッチョロイごど言ったって、しゃぁーんめッ。ネホン的な解決をしなくちャダメだんベェッ」
「ネホン的?あァ根本的か」
 ヤツは、馬鹿なところもDNAなのだ。
「車は急に止まれない。ごみも急には無くならない」
 私もトンチンカンなことを言った。
「チラシだのティシュだのタオルなんか配ると、逆にごみがふえるよッ。逆効果だよッ。改良区だの役場だのに反感持ってる人は、いっぱい居るよッ。
 1人の時は、まだいい。2人以上になってみなッ。集団気分が高揚して何やらがすが判んねェッ。世の中、単独犯よりも複数犯が増えでんだよッ。
エスカレート型犯罪と言うのを知んねのげぇッ。
ヌキホン的にやんなくちゃ駄目だんべぇッ」
「ウン。抜本的にナ。しかし、急には良くならない。サラサラリーンとは行かない」
「手緩いんだョ。捨てるだけ捨てさせておいて、後で皆〜ンなが拾っている。矛盾してっぺぇッ。マッチ・ポンプだんべぇッ。いたちごっこだんべぇッ。
 捨てるなって言うから、捨てるンだんべぇ。世の中逆なんだョ。そのぐれぇの道理判んねのげぇッ。理事長のくせしてようッ」
「・・・・・・」
 ヤツは、図にのって止まらない。ボッコレ車は、ブレーキもハンドルも壊れているので停止が効かない。警察官でも、雷様でも止められない。
「罰金が一番だよ、罰金ッ。空き缶1個で1万円。判りやすかんべぇ。アッチコッチの役場だって、環境美化条例を創って罰金制度を設けていっぺぇッ。
 手緩いんだょッ。厳しくしなくちゃ駄目だんべぇッ。氏名公表でも、罰金でもビシビシやんなくちゃァだんべぇッ」
 ヤツの、語尾の跳ね上がる言い方は、挑発的で胸糞悪い。
「厳罰主義だけが能ではない。幼少からの家庭教育や学校教育、社会共同体の中で学習させねばならなのだ」
「脳天気なごど言わねぇでくれッ。学者先生じゃァあるまいしぃッ」
 ボッコレ車は、更に速度を上げる。
「理事長ッ、ようっく聞いとごれッ。罰金制度を創るこどが、抑止力になるんだョ。犯罪だって、酔っ払い運転だって、罰金がどんどん重くなっている訳だッ。重い罰金が抑止力になってる筈だんべぇッ。統計的に明らかだんべぇッ。
 警察署を見なょ、警察署をよぅ。酔っ払い運転すっと、『免許取消し、懲役3年、罰金50万円』だょッ。判り易すかんべぇッ。現実を直視してくれようッ」
 私は、聞いている振りをしているだけだ。点けっ放しのテレビを見ている。
 馬鹿はいい気になって止まらない。
「改良区も真似をしたら良かんべ。たばこ1本2,000円、空き缶1個1万円。どうだネ理事長ッ」
「・・・」
 つけっ放しのテレビでは、民謡歌手が唄っている。
「・・・ハァ〜 それからどうした♪ それからどうした♪♪」
「役場サ行って、罰金条例創るように頼んでおごれッ。それが理事長の仕事だんべぇッ」
 教養人の私は、殿様らしく胸を張って、威厳を持って、丁寧な標準語で、穏やかに下級武士に伝達した。
「ド素人のおめェには判んめェが、行政だって本気ンなって考えている筈だァ〜ネ。現に条例創ってる役場もどんどん増えてるわげョ。オレラだって頑張っているんだどォッ。まがしておげッ。伊達に理事長やっていねぇッ。生意気こぐんぢゃねぇッ。コンチキショウッ」
「ほんぢゃァ任せる。宜しくお願いしますぅ」
 中味の濃い私の演説と、対話と圧力にヤツも納得した。虎も猫になった。扁桃腺の豚もパンダになった。
 テレビでは、流行歌手が唄っている。
「・・・・・・馬鹿よねぇ♪ 馬鹿よねぇ♪ ほんと〜うに馬鹿よねぇ♪♪」
 歌番組もフィナーレだ。派手な服装の美男アナウンサーが番組の終了を告げた。出場歌手がお辞儀をしてニコニコを手を振っている。
 渡りに船だ。当会議も終わりとする。
 かみさんが、賞味期限の切れた350mmの缶ビール1本を、ヤツの汚いジャンパーの右ポケットに堂々と入れた。
 ヤツは気が付かない振りをしている。
 これが慣例の閉会の辞である。
 ヤツは、無言でペタパタ、ペタパタと二重奏のサンダル音を立てながらボロ家に帰った。トボトボと・・・背に弦月の光をうけながら・・・。禿げ頭で足元を照らしながら・・・
 私は、寝不足になりそうだ。明日は理事会、月曜日で仏滅だ。議事進行が気に掛かる。

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平成16年9月主要行事報告
行  事
2都道府県水土里ネット事務責任者会議
6〜12平成16年度関東ブロック土地改良施設管理指導前期研修会
9米政策改革担当者会議・水田農業構造改革研修会
14〜15栃木県土地改良事業団体連合会OB会第6回総会
15第2回関東一都九県水土里ネット事務責任者会議
16栃木県圃場整備事業連絡協議会第11回通常総会
24栃木県換地センター換地計画書作成研修会
28異議紛争処理研修会
28平成16年度(第14回)農業農村整備計画セミナー
28〜1平成16年度土地改良区運営指導研修会
28〜1土地改良換地士特別研修会
29栃木県換地センター換地処分実務研修会
29鬼怒川左岸土地改良区合併予備契約書調印式

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表紙写真説明

表紙の写真『ヒガンバナの里』

○撮影者
 大野木 和 子さん
 (芳賀郡益子町在住)

○撮影地 那須郡黒羽町

○コ メ ン ト
 平成15年度「美しいとちぎのむら写真コンテスト」景観保持・文化部門で入選に輝いた作品です。
 タイトルのとおり彼岸花を前面にクローズアップした作品ですが、彼岸花の赤、頭を垂れた稲穂の黄、そして空の色模様など、色彩豊かなバランスの良い絵になっていると思います。
 秋の美しい農村のひとときを巧みにとらえた作品です。
 

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